宮本輝の泥の河のあらすじとレビュー!時代を超えても変わらない哀愁

三度の飯より読書好き!

フランスに住んでいても、深く理解しやすい日本語の本よく読んでいます。

今回はお勧めして頂いた宮本輝の小説「泥の河」を読んでみたので、そのブックレビューを書いてみました。

私のように海外に住んでいる日本人は、日本語の語彙も年々忘れがち。

表現の幅を広げるためにも、人間を知るという意味でもこの本はとても価値がありました。

では、早速あらすじから、お伝えしていきます。

最後に私の感想と、この本を読んで得たことも書いていますので是非ご覧下さい!

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宮本輝の「泥の河」のあらすじ

 
物語の舞台は、戦後の苦しさがありありと残る昭和30年の大阪。

主人公は、土佐堀川の橋下でうどん屋を営む両親の元で暮らす、9歳の男の子信雄。

その信雄の友人で、廓船とあだ名されるように母親が身体を売りつつ、何年も川べりを移動しながら流浪しながら船上生活する、友達の喜一の一家との関わりを描いたひと夏の物語です。

始終物悲しさを漂わせて戦後の庶民の生活の苦しさが描かれていますが、登場人物全てがどこか心の中にやりきれなさを抱えて、現在の自分に葛藤を抱きながら生活しているんですよね。

それぞれの葛藤を抱いて

この小説のポイントとなる主な登場人物の抱える葛藤を、書き出してみました。

信雄の父、晋平の葛藤


主人公の信雄の父、晋平は戦争でなぜだか生き延びた。

友人は死んでしまったのに、なぜ自分が生かされたのかわからない。

うどん屋をやっと順調に営むことが出来るようになったけれども、実はやりがいを見いだせずにいる。

知人から新潟に新しい事業をしようと誘われて、それに今後の人生を掛けたい。

信雄の母、貞子の葛藤


晋平の妻は年々持病のぜんそくが酷くなりながらも、新鮮な空気の新潟に移住するより、贅沢は出来ないけれど、今の安定した生活を優先したい。

信雄の友達の喜一の葛藤

喜一の母親は人に言えない職業で、子供心になんとなく肌で感じている。

学校にも行けなく、陸の上で住みたいけれど定住も出来ない船の流浪生活。

と、書き出してみましたが、ほぼ戦後社会のせいなんですよね。

景気が良くて、庶民の生活が潤っておればこんな葛藤も抱かないで済んだことでしょう。

どんなことがあっても、最低限の生活水準は確保しないといけないと私は思いました。

これは生きていく上で、人間の尊厳として必要不可欠だと思いませんか?

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「泥の河」を読んだ私の感想は?


まず一番最初に思ったのは、9歳の子供にこの体験は重すぎる出来事だと思いました。

私には10歳の息子がいますが、彼はこの様な世界があるとは想像も出来ないでしょう。

私の息子は何不自由なく生きて、彼自身はどう思っているかわかりませんが、少なくとも信雄より彼は幸せな環境です。

彼の友達もみな、定住出来る住まいがあり学校に通うことが出来ています。

戦争とは終わっても、こんな小さな子供の幸せな子供時代まで奪ってしまうものか。

これも大人が仕掛けた原因なので、百歩譲って彼が生まれる前に自分でこの人生を選んだとしても、同じ大人の立場の私の身に詰まるものを感じました。

とにかく信雄の友達の喜一の健気さと、定住できない流浪生活、身を売るしかない母親のせつなさ、それを傍から見ているしかない信雄がせつなかったです。

とにかく私は何が何でも戦争反対。

つまるところ、それに尽きます。

母子家庭の生活の苦しさ

あと特に気になった所が、今でもそうですが母子家庭の生活の苦しさについてです。

喜一には父親がおらず、母が身体が弱いせいで身を売ってしか収入を得ることが出来ない環境です。

橋の近くに住む兄弟が喜一の母親を侮辱する場面があるのですが、そこにも私はなんとも言いようのないやり切れなさを感じました。

小説の中ではっきりとした言葉で書かれていなかったものの、喜一は自分の母親が行っていることを、子供ながら決して良いことではないと察していたのでしょう。

その見知らぬ素振りをする喜一がより一層可哀想で、喜一の姉の銀子も、うどん屋の客の男連中にも侮辱され、日本の女性の立場は今も昔大して変わっていないと落胆してしまいました。

私は侮辱されようが身を売るしかなくても、2人の子供と生きている彼女は立派だと思うのですが、あなたはどう思いましたでしょうか?

私が同じ立場なら、私もあらゆる手を尽くしてそれでも無理なら、息子を食べさすために同じことをしたと思います。

この本を読んで得たこと、良かったことは?

私がこの小説を読んで、得たことは以下です。

  • 戦争反対
  • 『死』を考える

この2つです。

戦争反対は言うまでもありませんが、『死』については、人はいつ死ぬかもわからないし、死に様も予測出来ないものです。

主人公の信雄の父、晋平が言うように今の時代であっても「”すか”みたいな死に方」をするかもしれません。

私はフランスに住んでいるので、テロの流れ球に撃たれて死ぬかもしれません。

そんな風に『死』を意識せずはいられない小説です。

小説の冒頭では、さっきまでうどん屋で食事をしてた男が、店を出て事故であっけなく死んでしまいます。

彼もビルマで戦争を、くぐり抜けて生き延びたというのに。

『死』を考えることは『生』についてどう向き合うか、生かされている今このひと時をどう過ごすか?ではないでしょうか。

「泥の河」は読んで楽しくなる小説ではありません。

じゃあ読まない方がいいかと言うと決してそうではなく、だからこそ時折手に取って読むのにふさわしいジャンルの小説ではないかと思います。

「明日というものは、誰しも必ず訪れることではない」

改めてこの様に考える機会が出来たので、私はこの小説を読んでよかったです。

それともう一つ、著者宮本輝の書く日本語の表現力についてです。

美しい表現力を学ぶことの大切さ

内容の他にこの本を読んで、日本語の美しさと描写の繊細さに、これほどまで文字で状況を表現できるのか?と圧巻しました。

私は海外に住んでいるので、普段はあまり日本語を使いません。

だからこそ日本語の美しさや理リズムを忘れたくないと改めて思いました。

海外に住むとそこの言語で会話すればいいのであって、日本語を忘れても生活には支障をきたしません。

同じ日本人友達との会話も、段々日本語の語彙が減っていき、乏しいボキャブラリーで会話しがちになります。

ですが、やはり日本人として母国語の美しさを忘れたくない、さらに言えば私は人様に向けて自分の文章を発表しているブロガーです。

日本語で書いている海外在住日本人ブロガーとして、出来るだけ表現豊かに綴っていきたい、そうも思えた素晴らしい作品でもありました。

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この記事のまとめ

宮本輝の「泥の河」の感想とあらすじ、ブックレビューを書きました。

私一個人としての感想なのですが、この時代に生まれてよかったなと正直思ってしまうほど、苦しい生活が描かれています。

楽しい小説もいいですが、時にはこの小説のような、読んだ後に自分と対話出来るような作品を読んでみるのも、心のひだを増やす要素となるのではないでしょうか?

そして表現豊かな美しい日本語に触れる、素晴らしい作品でもありますよ。

宮本輝の作品では錦繍も、おススメです。

若いあなたでしたら「青が散る」の方が恋愛小説なので、読みやすいかもしれません。

ですが、私は宮本輝が好きなので、どれを読んでも「時間の無駄だった!」ってことはありませんでしたよ。

軽い小説もいいですが、時には情景が目に浮かび、時折ハっとするような描写に酔いしれながら普段味わうことのない、やり切れなさを味わうのも読書の醍醐味というもです。

戦後の日本にタイムスリップし、自分とは時代も環境も全く違う人生を垣間見てみませんか?

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